鏡餅を玄関に飾ってはいけない地域はある?理由や考え方について
お正月の準備で鏡餅を飾る場所について、玄関に飾ってはいけないという話を聞いたことはありませんか?
新年を迎えるにあたり、縁起の良い飾り付けをしたいと思う中で、こうした疑問は心に残りやすいものです。
特定の地域でそのような風習があるのか、それとも何か他に理由があるのか、気になりますよね。
実は、鏡餅を玄関に置くのに適さないとされるのには、いくつかの理由や昔ながらの考え方があります。
しかし、それは絶対的なルールなのでしょうか。
この記事では、鏡餅を玄関に飾ってはいけないとされる背景にある風習や理由を詳しく解説し、現代の住環境に合わせた最適な飾り場所についても明らかにします。
- 玄関に飾ることが推奨されない理由
- 鏡餅を飾るのに最適な場所
- 飾る日や使い回しに関する作法
- 地域ごとの風習と現代での考え方
鏡餅を玄関に飾ってはいけない地域について
鏡餅を玄関に飾ってはいけない地域はある?
結論から言うと、鏡餅を玄関に飾ることを明確に禁じている特定の地域というのは、実は特にありません。
「鏡餅を玄関に飾ってはいけない」という話は、ある特定の地域の限定的な風習というよりは、古くからの家屋の考え方や、個々の家庭で大切にされてきた慣習に根差していることが多いようです。
そのため、「〇〇県では玄関に飾ってはいけない」といったような、日本全国で広く知られる一律のタブーが存在するわけではないのが実情です。
現代の住宅事情の変化も、飾り場所の多様化に影響しています。
床の間や神棚がないマンションやアパートが増えたことで、お客様をお迎えする家の顔である玄関を、最も重要なおもてなしの場所と考え、一番立派な鏡餅を飾るご家庭も少なくありません。
一方で、玄関から遠い奥まった場所に飾る方が良いとする考え方が一部の地域で見られることもありますが、これも全国的に共通するメジャーな風習とは言えないでしょう。
玄関に飾ってはいけない理由とは?
鏡餅を玄関に飾らない方が良いとされる背景には、主に2つの伝統的な考え方が深く関わっています。
これらは、年神様への敬意をどのように表すかという、日本人古来の価値観に基づいています。
玄関が「下座」にあたるという考え方
日本の伝統的な家屋における礼儀作法では、部屋のどの位置が格上かを示す「上座・下座」という考え方が存在します。
一般的に、入り口から最も遠い奥まった場所や床の間を「上座(かみざ)」とし、主賓や目上の方が座る敬意の場所とされます。
対して、玄関は入り口にあたるため「下座(しもざ)」、つまり格の低い場所とみなされることがあります。
そのため、一年間の幸せをもたらしてくださる年神様という尊い神様をお迎えするための神聖な鏡餅を、下座である玄関に飾るのは失礼にあたる、という考え方がこの風習の根底にあります。
玄関が「不浄な場所」であるという考え方
玄関は家の外と内をつなぐ唯一の場所です。
人の出入りが激しく、土足で外の土やホコリを持ち込むことから、家の中では「不浄なもの」が入りやすい場所とされてきました。
年神様が宿る清浄な依り代(よりしろ)である鏡餅を、そうした不浄な気が入りやすい場所に置くのはふさわしくない、という考え方も、玄関を避ける大きな理由の一つです。
これらの理由から、年神様への最大限の敬意を示すために、より清浄で格の高い家の中心部に鏡餅を飾るべきだと考えられてきました。
他に飾ってはいけないとされる場所は?
玄関以外にも、鏡餅を飾るのにあまり適していないとされる場所がいくつかあります。
これらは年神様に対して失礼にあたると考えられる場所や、神聖な飾り物としての尊厳を保てない場所が主です。
例えば、テレビやスピーカー、パソコンの上など、常に騒がしい音がする場所は避けるべきだとされています。
年神様は静かで清浄な場所を好むと考えられているため、騒がしい家電製品の上は神様が落ち着いて滞在する場所として好ましくない、というわけです。
また、人が頻繁に通る廊下の床の上や、物で雑然とした棚の上など、不潔に見えたり、見下ろす形になったりする場所も推奨されません。
ただし、これらの考え方も絶対的なルールではありません。
最も大切なのは、年神様をお迎えし、新しい一年を健やかに過ごせることへの感謝を込めておもてなしするという気持ちです。
現代の家の構造やライフスタイルに合わせて、家族みんなが気持ちよく新年を迎えられる場所に、心を込めて飾ることが何よりも重要になります。
トイレなどは置かないという意見もあるが
トイレや洗面所、お風呂といった水回りは、伝統的に「不浄な場所」とされることがあるため、神聖な鏡餅を飾るべきではないという意見もあります。
確かに、衛生的な観点から食べ物であるお餅を置くことに抵抗を感じる方もいるかもしれません。
しかし、この考え方には全く逆の興味深い解釈も存在します。
古来より、日本では「八百万の神(やおよろずのかみ)」という思想があり、家の中の様々な場所にはそれぞれ異なる神様が宿ると考えられてきました。
特にトイレには「厠神(かわやがみ)」という、健康や安産にご利益のある大切な神様がいるとされています。
そのため、「トイレにも大切な神様がいらっしゃるのだから、新年のご挨拶として鏡餅を飾っておもてなしをしよう」と考える人の方が多い傾向にあります。
「不浄な場所だからこそ、年神様が宿る神聖な鏡餅を置くことで、その場所が清められる」という、非常に前向きな考え方もあります。
実際に、台所の火の神様である「荒神様(こうじんさま)」や、寝室の「納戸神様(なんどがみさま)」など、それぞれの場所に感謝を込めて小さな鏡餅を飾るご家庭も多いですよ。
どうしても衛生面が気になる場合は、本物のお餅ではなく、近年増えているガラス製や木製、プラスチック製の置物を飾るというのも一つの良い方法です。
結局のところ地域や家の風習によって異なる
これまで見てきたように、鏡餅を飾る場所に関する考え方は決して一つではありません。
玄関に飾ることを良しとしない伝統的な意見もあれば、家の顔としてお客様をお迎えする玄関こそが最もふさわしいという現代的な考え方もあります。
トイレに関しても同様で、不浄な場所と捉えるか、あるいは神様のいる大切な場所と捉えるかで、その対応は大きく異なります。
結論として、鏡餅を飾る場所に「これが唯一の正解」という全国共通の厳格な決まりはなく、最終的にはそれぞれの地域や家の風習、そして個人の考え方によって異なると言えるでしょう。
時代の変化とともに住宅事情も大きく変わり、床の間や神棚のない家が多数派となりました。
最も大切なのは、古い慣習の一つ一つに過度に縛られることではなく、自分たちの住まいやライフスタイルの中で、年神様への感謝と敬意を最も表現できる場所に心を込めて飾ることです。
鏡餅を玄関に飾ってはいけない地域とその他の疑問
鏡餅を飾ってはいけない日は?
鏡餅をいつ飾るかという日取りにも、古くからの習わしがあり、縁起が良いとされる日と避けるべき日があります。
年末の慌ただしい中で準備を始める前に、飾ってはいけない日をしっかりと確認しておきましょう。
一般的に、以下の2日間は鏡餅をはじめとする正月飾りを飾るのを避けるべきだとされています。
避けるべき日 | 理由 |
---|---|
12月29日 | 日付の「9」が「苦」を連想させ、「二重苦」につながることから縁起が悪い日とされています。ただし、地域によっては「29(ふく)」と読んで「福」と捉え、問題ないとするところもあります。 |
12月31日 | 大晦日に飾ることを「一夜飾り」と呼び、お葬式の飾り方が一夜限りであることから、それを連想させるため縁起が悪いとされています。また、新年の大切な神様をお迎えするのに、たった一日だけの急ごしらえの準備では誠意に欠ける、失礼にあたるという考え方もあります。 |
正月飾りを飾るのに最も良い日とされているのは12月28日です。
これは、漢数字の「八」が末広がりで縁起が良い数字とされているためです。
もし28日に間に合わなくても、29日と31日を避けて、30日までには飾り終えるのが良いでしょう。
鏡餅は仏壇に飾っても問題ない?
鏡餅を仏壇にお供えしても全く問題ありません。
むしろ、仏壇はご先祖様を祀る家の中で最も神聖で大切な場所の一つであり、鏡餅を飾るのに非常にふさわしい場所とされています。
お正月は年神様をお迎えする神道の行事ですが、日本の家庭では神道と仏教の習慣が自然に融合しています。
ご先祖様に対して、無事に新年を迎えられたことへの感謝を報告し、新年のご挨拶をするという意味で仏壇に鏡餅をお供えするのは、とても丁寧で良いことです。
神棚があるご家庭では、まず神棚に、そして仏壇にもお供えするのが一般的です。
仏壇にお供えする場合、通常のお供えと同様に、お餅は「五供(ごくう)」の一つである「飲食(おんじき)」として扱われます。
飲食の中でも、仏飯(炊きたてのご飯)の次に位の高いお供え物とされているんですよ。
去年使った鏡餅を使いまわしてもいい?
伝統的な考え方では、鏡餅やしめ飾りなどの正月飾りは、毎年新しいものを用意するのが基本であり、使い回しは避けるべきとされています。
これには、いくつかの深い理由があります。
第一に、年神様は毎年新たに各家庭を訪れるため、その年神様を清浄な状態でお迎えするために、真新しい飾りでおもてなしをする、という考えに基づいています。
古い飾りを使い回すことは、前年の穢れ(けがれ)を持ち越すことになり、神様に対して失礼にあたると考えられているのです。
また、正月飾りは一年間、その家の厄災を吸い取ってくれたお守りのような役割も担っているとされます。
そのため、一年のお役目を終えた飾りは、どんど焼きなどで浄火に返し、感謝を込めて処分するのが本来の習わしです。
置物やレプリカの鏡餅は使っても大丈夫?
最近では、木製やガラス製、ちりめん細工など、デザイン性に優れたおしゃれな置物やレプリカの鏡餅が大変人気です。
これらをインテリアとしてお正月の雰囲気を楽しむために飾ることは、全く問題ありません。
毎年きれいに飾れますし、カビの心配もなく衛生的なので、現代のライフスタイルには非常に適しています。
食べられるお餅も一緒に供えましょう
ただし、ここで一点だけ心に留めておきたい大切なことがあります。
農林水産省の解説にもあるように、鏡餅は単なる飾りではなく、年神様へのお供え物であると同時に、そのお下がりを「鏡開き」でいただく(食べる)ことで神様の力を体に取り込み、一年の無病息災を願う、という食文化としての重要な意味合いがあります。
(出典:農林水産省「鏡もちの由来と美味しく食べるコツ」)
そのため、置物やレプリカをメインで飾る場合でも、それとは別に、小さくても良いので実際に食べられるお餅を一緒にお供えすることが本来の風習に沿った丁寧な飾り方として推奨されています。
鏡開きの際のタブー行為は?
お正月の間お供えした鏡餅は、松の内が明けた後、「鏡開き」の日に下げていただきます。
一般的に関東では1月11日、関西では1月15日や20日に行われることが多いこの行事にも、やってはいけないとされるタブー行為が存在します。
最も有名なタブーは、鏡餅を包丁などの刃物で切ることです。
これは、鏡開きが元々武家社会の「具足開き(ぐそくびらき)」という風習に由来しており、「切る」という行為が「切腹」を連想させるため、縁起が悪いとされているからです。
また、「割る」という言葉も縁起が良くないため、末広がりを意味する「開く」という言葉が使われるようになりました。
年神様が宿っていた神聖なお餅に刃物を向けるのは失礼だという考え方もあり、鏡餅は手や木槌(きづち)などで割って(開いて)食べるのが正しい作法です。
もう一つの重要なタブーは、鏡餅を食べ残したり、カビが生えたからと安易に捨てたりすることです。
年神様の力が宿ったお餅は、少しのカケラでもいただくことでご利益があるとされています。
感謝の気持ちを込めて、お雑煮やお汁粉、かき餅などにして、最後まで美味しくいただくことを心がけましょう。
まとめ:鏡餅を玄関に飾ってはいけない地域について
この記事の重要ポイントをまとめます。
- 鏡餅を玄関に飾ってはいけないと明確に定める地域は特にない
- 玄関に飾らない理由として「下座」や「不浄な場所」という考え方がある
- 玄関は家の格が低い場所とみなされることがある
- 外からの不浄な気が入りやすい場所とされるため神聖な鏡餅には不向きとの意見もある
- しかし現代の住宅事情では玄関を主要な飾り場所とする家庭も多い
- トイレも不浄な場所とされるが「厠神」がいるため飾るという考え方が主流
- 結局のところ鏡餅を飾る場所に絶対的なルールはない
- 重要なのは地域や家の風習、個人の考え方を尊重すること
- 飾るのを避けるべき日は「苦」を連想させる12月29日
- 大晦日の12月31日に飾る「一夜飾り」も縁起が悪いとされる
- 飾るのに最適な日は末広がりの12月28日
- 仏壇にご先祖様への感謝としてお供えするのは良いことである
- 正月飾りは毎年新しくするのが基本で使い回しは避けるべき
- 置物やレプリカを飾る際は食べられるお餅も一緒に供えるのが望ましい
- 鏡開きでは包丁を使わず手や木槌で餅を開き、残さずいただくのが作法である