鏡餅が丸い理由とは?お供え物としての形や名前の由来について

お正月が近づくと、スーパーやお店の店頭で「鏡餅」を目にする機会が増えます。
日本の新年を象徴する大切な飾りですが、なぜ丸い形をしているのか、その由来や意味について深く考えたことはありますでしょうか。
鏡餅は、単なるお餅の飾りではなく、新年を迎える日本の伝統的な文化そのものです。
その形や、お餅の上に鎮座するみかん(のような柑橘類)、そして添えられた葉に至るまで、一つひとつに大切な意味と先人たちの願いが込められています。
この記事では、鏡餅が丸い理由という素朴な疑問から、なぜみかんが乗せられているのか、飾りの意味、正しい飾り方や鏡開きでの注意点まで、その背景にある文化とともに詳しく解説します。
由来を知ることで、今年のお正月はいつもと違った気持ちで鏡餅を飾れるかもしれません。
- 鏡餅が丸い理由と名前の由来
- 鏡餅にみかん(橙)を乗せる意味
- 裏白やゆずり葉など他の飾りが持つ意味
- 鏡餅を飾る場所や鏡開きでの注意点
鏡餅が丸い理由とは?
鏡餅が丸い理由は何なのか?
鏡餅が丸い理由については、いくつかの説が存在します。
その中でも最も有力とされているのが、その形が昔の「銅鏡(どうきょう)」に似ているからという説です。
昔の鏡は青銅製で丸い形をしており、単に姿を映す道具としてだけではなく、神様が宿る神聖なものとして神事に用いられていました。
光を反射して太陽のように輝くことから、太陽神である天照大神(あまてらすおおみかみ)の御神体として祀られるなど、特別な力を持つと信じられていたのです。
この神聖な鏡を模して、神様へのお供え物である大切なお餅を丸い形にしたのが、鏡餅の始まりとされています。
業界団体である日本鏡餅組合のウェブサイトでも、鏡餅の丸い形は人の魂(心臓)を模したもの、または昔の鏡が円形だったことに由来する(諸説あり)と解説されています。
その他の「丸い理由」の説
鏡餅の丸い形には、この他にも日本の文化や信仰に基づいた、以下のような意味が込められていると言われています。
- 人の魂(心臓)説: 古くから、人の魂が宿る場所は「心臓」であると考えられていました。その心臓の形を模して丸くしたという説です。
- 太陽説: 日本人は古くから稲作を行っており、稲の生育に欠かせない「太陽」の形を模したという説です。新年の神様への感謝と、その年の豊作を願う気持ちが込められています。
- 円満説: 角のない丸い形が「家庭円満」や「円満に年を重ねる」ことを表しているという説です。
このように、鏡餅の丸い形には、神様への敬意や五穀豊穣、家族の円満といった、人々の一年を通じたさまざまな願いが込められているのです。
鏡餅の由来や意味&なぜ鏡という名前なのか?
鏡餅は、お正月に家々を訪れる年神様(としがみさま)をお迎えするためのお供え物です。
年神様は、新年の幸福や健康、そして五穀豊穣をもたらすために高い山から降りてこられる神様とされています。
その年神様が、お正月の期間中に滞在していただくための「依り代(よりしろ)」、つまり神様の居場所となるのが鏡餅の最も重要な意味です。
では、なぜ「鏡」という名前が使われているのでしょうか。
これには、前述の「丸い理由」が深く関わっています。
最も大きな理由は、お餅の形が昔の神聖な鏡(銅鏡)に似ていることです。
古来、鏡は神様が宿るものとされ、皇位の証として受け継がれる「三種の神器」の一つに「八咫鏡(やたかがみ)」があることからも分かる通り、非常に神聖な宝物でした。
鏡餅と呼ばれる理由のまとめ
- お正月に訪れる年神様の「依り代(居場所)」としてのお供え物である。
- その形が、神様が宿るとされる神聖な「丸い鏡(銅鏡)」に似ている。
- 神聖な鏡になぞらえて「鏡餅」と呼ばれるようになった。 ol>
歴史的には、鏡餅と考えられる表現は平安時代の『源氏物語』にも見られ、室町時代には現代のように床の間に飾る様式が定着したと言われています。
また、鏡餅の「鏡」には、「鑑みる(かんがみる)」、つまり「良い手本や規範に照らして考える」という意味が込められているという説もあります。
新年を迎えるにあたり、神様の力が宿った神聖な鏡餅を見て、この一年の自分の行いを省み、心を新たにするという意味合いも込められていたのかもしれません。
鏡餅にはなぜみかんを使う?その意味は?
鏡餅の一番上に乗っている可愛らしい柑橘類ですが、多くの人が「みかん」だと思っていますが、本来は「みかん」ではありません。
これは「橙(だいだい)」と呼ばれる、ミカン科の果物です。
では、なぜ「橙」が使われるのでしょうか。
その最大の理由は、名前が「代々(だいだい)」に通じるためです。
橙は、実が熟しても木から落ちにくく、収穫しなければ一つの木に新旧の実が何代にもわたって生り続けるという、非常に珍しい特徴を持っています。
みかんの産地である西宇和みかんの公式サイトでも、「果実が実ってもなかなか落ちないことや、「代々」栄えるようにという語呂合わせから、縁起の良いかんきつとしても知られています。」と解説されています。
この様子を、家族が「代々」繁栄し、健康で長寿であることになぞらえ、子孫繁栄や長寿を願う縁起物として飾られるようになりました。
最近では、スーパーなどで橙そのものが手に入りにくかったり、プラスチック製の鏡餅のサイズが小さかったりすることから、見た目が似ていてサイズの合う「みかん」が代用品として使われることが一般的になっています。
みかんを使う場合でも、その鮮やかな「だいだい色」が新年にふさわしく縁起が良いとされ、橙と同様に子孫繁栄の願いが込められています。
鏡餅が丸い理由について
鏡餅の飾りにはそれぞれどんな意味がある?
鏡餅は、お餅と橙(みかん)が重なっているだけではありません。
正式には、その下に敷く紙や葉、台座など、さまざまな縁起の良い飾り付けがされます。
これらがすべて揃って一つの「鏡餅飾り」となります。
それぞれの飾りが持つ意味を知ることで、お正月飾りがより深いものになります。
地域や家庭によって飾りの種類は異なりますが、代表的なものには以下のような意味が込められています。
鏡餅本体以外の主要な飾り
まず、お餅を乗せる台や下に敷くものにも意味があります。
- 三方(さんぽう): 鏡餅を乗せる台のことです。神様へのお供え物を乗せるための、ひのきなどで作られた神聖な台座です。
- 四方紅(しほうべに): 三方の上、鏡餅の下に敷く、四方を赤く縁取った紙のことです。これは「天地四方」を拝し、四方からの災いを払って新年の「繁栄」を祈願するという意味が込められています。
お餅の周りの飾り
お餅の周りには、縁起の良い植物や海産物が飾られます。
| 飾りの名称 | 意味・由来 |
|---|---|
| 裏白(うらじろ) | シダ植物の一種で、お餅の下に敷きます。葉の裏が白いことから「心に裏表がない潔白さ」や「白髪になるまでの長寿」を表します。また、古い葉とともに新しい葉が生えてくる様子から「久しく栄える」という意味も持ちます。 |
| ゆずり葉(譲り葉) | 春に新しい葉が生えそろうと、古い葉がそれを待っていたかのように「代を譲って」落ちる植物です。この様子から、親から子へと家が途絶えることなく「代々受け継がれる」、つまり「子孫繁栄」を願う意味が込められています。 |
| 串柿(くしがき) | 干し柿を串に刺したものです。柿は「嘉来(かき)」として「幸せがやって来る」という意味があります。また、一説には三種の神器(鏡=餅、玉=橙、剣=串柿)を表しているとも言われています。 |
| 昆布(こんぶ) | 「よろこぶ」という言葉にかけて縁起が良いとされています。また、「子生婦(こんぶ)」という字が当てられることもあり「子孫繁栄」の願いも込められます。さらに古くは「広布(ひろめ)」とも呼ばれ、「喜びを広める」という意味も持ちます。 |
| 御幣(ごへい) | 赤と白の紙を組み合わせた飾りです。赤は「魔除け」、白は「清らかさ」を意味します。神様への捧げ物であると同時に、四方に手を広げて繁栄を祈願する姿を表しているとも言われています。 |
鏡餅を飾る場所で気を付けることは?
鏡餅は年神様をお迎えするための大切なお供え物であり、神様の居場所となるものです。
そのため、どこにでも置いて良いというわけではなく、飾る場所や時期にも古くからの習わしがあります。
心を込めて準備し、正しい作法で神様をお迎えしましょう。
飾る場所
鏡餅を飾る場所の基本は、「年神様に来てほしい」と願う、清浄な場所です。
伝統的には、家の中で最も格が高いとされる「床の間」や、神様を祀る「神棚」が基本とされてきました。
これらは家の中で最も神聖な場所と考えられていたためです。
現代の住環境では床の間や神棚がないご家庭も多いため、その場合は以下の場所が推奨されます。
- リビング: 家族が一番多く集まる場所。
- 玄関: 新しい福が入ってくる場所。
- 台所(キッチン): 火や水の神様がいらっしゃる大切な場所。
大切なのは、神様をお迎えするのにふさわしく、きれいに掃除された場所に飾ることです。
見下ろすような低い場所や、騒がしいテレビの上などは避けるのが良いでしょう。
飾る時期
鏡餅を飾り始める日にも、縁起を担ぐ上で注意が必要です。
一般的に、正月の準備を始める「正月事始め」である12月13日以降であれば、いつ飾っても良いとされています。
- 最適な日: 12月28日
漢数字の「八」が末広がりで縁起が良いとされ、この日に飾るのが最も良いとされています。 - 避けるべき日 (1): 12月29日
「9」が「苦」を連想させ、「二重苦」につながるため、縁起が悪い日とされています。 - 避けるべき日 (2): 12月31日
大晦日に慌てて飾ることは「一夜飾り」と呼ばれます。これは葬儀の飾り付け(通夜)と同じとされるため、「神様に対して失礼にあたる」「誠意がない」として古くから忌み嫌われています。
これらの理由から、遅くとも12月30日までには飾り終えるのが望ましいとされています。
鏡開きでやってはいけないとされる行為は?
年神様がいらっしゃる松の内(一般的に1月7日まで)が明けると、お供えしていた鏡餅を下げていただく「鏡開き(かがみびらき)」という行事が行われます。
この鏡餅には年神様の力が宿っているとされており、それを家族で分けて食べることで、神様の力を分けていただき、一年間の無病息災を願います。
鏡開きを行う日は地域によって異なりますが、一般的には1月11日に行われることが多いです。
農林水産省のウェブサイトでも、「1月11日は「鏡開き」」として、お供えしていた鏡餅を下ろして無病息災を願って食べる行事として紹介されています。
(関西地方では1月15日や20日に行うなど、地域差があります。)
この鏡開きを行う際には、一つだけ古くから伝わる重要な注意点があります。
それは、刃物を使ってはいけないということです。
なぜ刃物を使ってはいけないのか?
鏡開きは、もともと武家社会の「具足開き(ぐそくびらき)」(鎧兜にお供えした餅を食べる行事)という習慣に由来しています。
武家にとって、お供え物である神聖な鏡餅に包丁などの刃物を入れることは、「切腹」を連想させるため、大変縁起が悪いこととして固く禁じられていました。
そのため、乾燥して固くなったお餅は、包丁で「切る」のではなく、手で欠いたり、木槌(きづち)などで叩いたりして「割る」のが習わしとなりました。
ただし、時代とともに「割る」という言葉も縁起が良くない(壊れる、分離するなど)と考えられるようになりました。
そこで、末広がりで縁起の良い「開く」という言葉が使われるようになり、「鏡開き」と呼ばれるようになったのです。
鏡開きは、単にお餅を食べる日ではなく、神様との縁を開き、新年の幸運を開くという意味が込められた大切な行事です。
神様の力が宿ったお餅は、お雑煮やおしるこ、かき餅などにして、家族みんなで感謝の気持ちを持って残さずいただくようにしましょう。
鏡餅が丸い理由とは?まとめ
この記事では、お正月の象徴である鏡餅がなぜ丸いのか、その理由や背景にある深い意味について解説しました。
単なる新年の飾りとしてだけでなく、一つひとつの要素に、神様への感謝や家族の健康、子孫繁栄といった先人たちの切実な願いが込められていることがお分かりいただけたかと思います。
最後に、この記事の要点をまとめます。
- 鏡餅は新年に年神様をお迎えするためのお供え物
- 鏡餅は年神様が正月に滞在する「依り代」の役割を持つ
- 鏡餅が丸い理由は昔の神聖な「銅鏡」に似ているから
- 丸い形は「心臓(魂)」や「太陽」を模したという説もある
- 丸い形は「家庭円満」の願いも込められている
- 「鏡」という名前は神聖な鏡に由来する
- 鏡餅の上に乗せるのは本来「みかん」ではなく「橙(だいだい)」
- 「橙」は実が落ちにくく「代々」続くという語呂合わせで子孫繁栄を願うもの
- 現在は橙の代用品としてみかんが使われることも多い
- 鏡餅の飾りにはそれぞれ縁起の良い意味がある
- 「裏白」は長寿や潔白さの象徴
- 「ゆずり葉」は子孫繁栄の象徴
- 飾る日は末広がりの「12月28日」が最適
- 「12月29日(二重苦)」と「31日(一夜飾り)」は縁起が悪いため避ける
- 鏡開きは一般的に1月11日に行われる
- 鏡開きでは刃物を使うのはタブーとされる
- 刃物は武家社会の「切腹」を連想させるため縁起が悪い
- 「切る」や「割る」ではなく縁起の良い「開く」という言葉が使われる
- 鏡餅を食べることで年神様の力をいただき一年間の無病息災を願う
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