鏡餅に干し柿を飾る地域はどこなのか?串柿の意味や飾り方について

鏡餅

鏡餅に干し柿を飾る地域はどこなのか?串柿の意味や飾り方について

新年を迎える準備は、日本人にとって特別な意味を持つ時間です。

大掃除を終え、清々しい気持ちで正月飾りを準備する中で、鏡餅の飾り方についてふと疑問に思ったことはありませんか?

特に、鏡餅に美しい橙色をした干し柿が添えられている光景は、ある地域では幼い頃から見慣れたものですが、他の地域に住む方にとっては新鮮な驚きかもしれません。

この飾り方一つをとっても、日本がいかに多様で豊かな地域文化に彩られているかが垣間見えます。

この記事では、鏡餅と干し柿という、一見シンプルな組み合わせの裏に隠された地域ごとの違いや、そこに込められた深い意味を丁寧に解説していきます。

さらに、柿以外の珍しいお供え物についても知識を広げ、何気なく飾っていたお正月の伝統が、より一層味わい深いものになるような情報をお届けします。

この記事を読んでわかること
  • 鏡餅に干し柿を飾る地域とその由来
  • 串柿や他のお供え物に込められた願い
  • 鏡餅の形や鏡開きの時期に見られる地域差
  • 日本の多様な正月文化に関する知識

鏡餅に干し柿を飾る地域はどこ?

この章の内容
  • 鏡餅に干し柿を飾る地域はどこなのか?
  • 干し柿(串柿)にはどんな意味がある?
  • 串柿を使うのは三種の神器に見立てるため
  • 鏡餅に添えた干し柿は後で食べるの?

鏡餅に干し柿を飾る地域はどこなのか?

鏡餅に干し柿、とりわけ竹串に刺した「串柿」を飾るという風習は、主に関西地方で深く根付いている特徴的な文化です。

中でも、古くからの柿の名産地である和歌山県や奈良県では、この習慣が特に顕著に見られます

その象徴的な場所が、和歌山県伊都郡かつらぎ町に位置する四郷地区です。

「串柿の里」として全国的に知られるこの地域は、400年以上の長きにわたり串柿作りの伝統を守り続けてきた一大産地です。(出典:かつらぎ町観光協会

ここで生産される串柿は、全国の正月用串柿の約9割を占めるとも言われており、日本の正月文化を支える重要な役割を担っています。

毎年11月頃になると、この地域では収穫された渋柿の皮を手作業で一つひとつ丁寧に剥き、竹串に刺して軒先などに吊るして乾燥させます。

オレンジ色の柿が幾重にも連なる光景は「玉すだれ」と呼ばれ、晩秋の風物詩として多くの人々の目を楽しませています。

このように、地域の気候風土と特産品を最大限に活かした飾り方が、その土地ならではの文化として世代を超えて受け継がれているのです。

関西地方以外の地域では?

関東地方をはじめとする他の多くの地域では、鏡餅に干し柿を飾る習慣は一般的ではありません。

関東では鏡餅の上に「家が代々栄えるように」との願いを込めて橙(だいだい)を乗せるのが主流です。

お正月の飾り方一つをとっても、地域ごとに異なる歴史や価値観が反映されており、日本の文化の奥深さを示しています。

干し柿(串柿)にはどんな意味がある?

鏡餅に厳かに飾られる串柿には、ただ美しいだけでなく、新しい年の幸福と繁栄を願う人々の様々な祈りが込められています。

まず、最も広く知られているのが、言葉の響きを縁起の良い言葉に結びつける「語呂合わせ」です。

柿という言葉の音から「嘉来(かき)」という字が当てられ、「喜びや幸せがやって来る」「幸せをかき集める」といった、新年に向けた明るい願いが込められています

また、干し柿はかつて冬の貴重な保存食であり、栄養価が高いことから、それを食べると長生きできると考えられていました。

このことから、家族の健康と長寿を願う象徴ともされています。

串柿の数にも、素敵な意味が隠されているんですよ。

一般的に串柿は、1本の串に10個の干し柿が刺されていますが、この飾り方には面白い語呂合わせがあるんです。

串の両端に2個ずつ、そして真ん中に6個を配置することで、「いつもニコニコ(2個・2個)、仲睦(6つ)まじく」と読み解き、家族がいつも笑顔で円満に過ごせるように、という願いを表現しているのです。

串柿に込められた主な願い

  • 幸福の招来:「嘉来」の語呂合わせで、多くの喜びや幸せをかき集める。
  • 長寿と健康:栄養価が高く保存の利く干し柿に、末永い健康と長寿を願う。
  • 家庭円満:10個の柿のユニークな並び方で「いつもニコニコ仲睦まじく」という家族の幸せを表現する。

このように、串柿は単なる美しい飾りではなく、その土地の人々の暮らしの知恵と、新年を迎える家族への温かい祈りが凝縮された、意味深い縁起物なのです。

串柿を使うのは三種の神器に見立てるため

鏡餅の飾り方にはもう一つ、非常に格式高い解釈が存在します。

それは、飾り全体を、皇室に古くから継承されてきた「三種の神器」になぞらえるという考え方です。

三種の神器とは、日本の神話に由来し、歴代天皇が皇位の証として受け継いできた八咫鏡(やたのかがみ)、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)という三つの宝物を指します。

この神聖な見立てにおいて、鏡餅のそれぞれの飾りは、以下のように対応すると考えられています。

鏡餅の飾り三種の神器象徴・意味
鏡餅八咫鏡(やたのかがみ)その丸い形が鏡を模しており、円満や正直な心を象徴します。
橙(だいだい)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)魂の形ともいわれる勾玉に見立てられ、子孫繁栄や生命力を象徴します。
串柿天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)柿が串に刺さっている形状が剣を連想させることから、武勇や決断力を象徴します。

この説によれば、串柿は単なる食べ物ではなく、神聖な「剣」を象徴していることになります

鏡餅は「鏡」、そして橙は「勾玉」に見立てられ、これら三つが揃うことで、年神様をお迎えするための非常に縁起が良く、力強いお供え物になると考えられているのです。

この風習は、新年という特別な節目に、神聖なものにあやかり、その力を分けていただくことで一年を安寧に過ごしたいという、古来からの人々の敬虔な願いの表れと言えるでしょう。

鏡餅に添えた干し柿は後で食べるの?

鏡餅に飾られた串柿を、鏡開きの後に食べるべきか、それとも処分すべきか、これは串柿の作られ方や目的によって異なります。

前述の通り、和歌山県のかつらぎ町などで生産される正月飾り専用の串柿は、食用ではなく、あくまで神様へのお供え物、そして装飾品として作られています

これらは、お正月の間ずっと美しい形を保てるように、通常よりも水分を抜き、固く干し上げられています。

そのため、食感も硬く、食用にはあまり向いていません。

飾り付けに使った串柿は、年神様への感謝を込めて、他の正月飾りと共に適切に処分するのが一般的です。

地域によっては神社で「どんど焼き」や「左義長」と呼ばれるお焚き上げの神事が行われるので、そちらに持参して納めるのが丁寧な方法です。

一方で、串柿とは別に、食べることを目的として作られる「あんぽ柿」という種類の干し柿も人気があります。

あんぽ柿は、硫黄で燻蒸するなどの製法により、水分を多く含んだ状態で仕上げられます。

そのため、食感はゼリーのように柔らかく、トロリとした濃厚な甘みが特徴です。

こちらは、お正月に家族団らんで楽しむお茶請けやデザートとして親しまれています。

飾りの干し柿を食べる際の注意点

もしご家庭で飾った干し柿をどうしても食べたいという場合は、衛生面に最大限の注意が必要です。

長期間、暖房の効いた室内に飾られていたものは、ホコリが付着しているだけでなく、乾燥が進み過ぎて石のように固くなっている可能性があります。

召し上がる際は、あくまで自己責任で、カビなどがないか状態をよく確認してください。

鏡餅と干し柿以外の地域による違い

この章の内容
  • 正月に柿を食べる文化は他にもある
  • 柿以外で鏡餅と一緒に供える珍しいもの
  • 鏡餅自体も地域によって形が変わる
  • 鏡開きの時期や食べ方にも地域差がある

正月に柿を食べる文化は他にもある

鏡餅に串柿を飾る風習以外にも、お正月の縁起物として柿を食べるという文化が、一部の地域には今もなお残っています。

ゆず巻柿

奈良県の吉野地方などで作られる伝統的な和菓子で、丁寧に開いた干し柿で、爽やかなゆずの皮を練り込んだ羊羹や寒天を巻き込んだものです。

柿の濃厚な甘さと、ゆずの気品ある香りが絶妙に調和した上品な味わいが特徴です。

その名前から「福をかき寄せる」という縁起を担ぎ、おせち料理の口取りや祝い肴の一品として加えられることがあります。

年とり柿

東北地方や北陸地方の一部で見られる習わしで、大晦日の夜や元旦の朝に、家族が一人ひとつずつ干し柿を食べる「年とり柿」という習慣があります。

昔は各家庭で干し柿を作ることが一般的であり、冬の間の貴重な糖分、ビタミン源でした。

一年の健康と長寿を願い、年の初めに滋養豊富な柿を食べることで、年神様から新たな生命力をいただくという意味合いがあったと言われています。

これらの習慣は、柿が古くから日本人にとって非常に身近な果物であったことを物語っています。

秋の豊かな実りを象徴し、その栄養価の高さや保存性から、冬を越すための大切な食料としてだけでなく、人々の幸せを願う縁起物としても、文化の中に深く溶け込んできたのです。

柿以外で鏡餅と一緒に供える珍しいもの

鏡餅を彩る飾りは、干し柿や橙だけではありません。

地域や家庭の慣習によって、実に様々な縁起物が供えられます。

それぞれに新年の豊作や健康、一族の繁栄を願う深い意味が込められています。

ここでは、代表的なお供え物とその意味をいくつか紹介します。

飾り物主な地域込められた意味・由来
するめ全国長期保存が利くことから「末永い幸せ」を願う縁起物。また、「寿留女」というめでたい当て字から、嫁いだ娘がその家に長く留まり幸せになるようにという願いや、家庭円満の象徴ともされます。
昆布全国(特に関西)「よろこぶ」という言葉にかけられ、新年に多くの喜びごとがありますようにと願います。「広布(ひろめ)」とも呼ばれ、一家の幸せが広がる象徴。また、「子生婦」と書き、子孫繁栄の縁起物ともされます。
伊勢海老全国茹でると赤くなることから魔除けの色とされ、長く伸びた髭と曲がった腰の姿から、腰が曲がるまで元気に長生きできるようにという長寿の願いが込められています。
ゆずり葉全国春に新しい葉が出たのを見届けてから古い葉が落ちるという特徴的な性質から、親から子へ家督が途絶えることなく無事に譲られ、家系が代々続いていくようにという子孫繁栄の願いが込められています。
勝栗(かちぐり)武家文化の残る地域栗を搗(か)ちて作った保存食である「搗ち栗」が「勝ち栗」に通じることから、戦の勝利を祈願する縁起物として武家に重んじられました。現代では勝負事や受験の合格祈願として飾られます。

これらの飾り物は、どれも日本の豊かな言葉遊びや、自然の恵みに対する感謝の心が反映されています。

ご自身の家庭や地域の飾り方が、どのような歴史や意味を持っているのかを改めて調べてみるのも、お正月を迎える楽しみの一つかもしれません。

鏡餅自体も地域によって形が変わる

お供え物だけでなく、年神様が宿る依り代である鏡餅そのものの形や色にも、興味深い地域ごとの特色が見られます。

紅白の鏡餅

石川県金沢市とその周辺地域では、上段が紅、下段が白の紅白二段重ねの鏡餅が一般的です

これは、この地を治めた加賀藩主・前田家の年中行事を記した史料に紅白の鏡餅が描かれていることから、その武家文化が城下の庶民に広まったものと考えられています。

おめでたい紅白の色合いが、新年の晴れやかな食卓を一層華やかに彩ります。

三段重ねの鏡餅

関西地方の一部では、火の神様(荒神様)へのお供え物として、大小三つの餅を重ねた三段重ねの鏡餅を飾る独特の習慣があります。

「福が重なる」「円満に年を重ねる」といった願いを、より強調した形と言えるでしょう。

家庭の繁栄を願う気持ちが、餅の段数にも表現されています。

丸餅と角餅

お雑煮に入れるお餅の形に東西で違いがあることはよく知られていますが、鏡餅の原型となるお餅の形も同様に異なります。

農林水産省の解説によると、その境界線は、天下分け目の戦いがあった岐阜県の関ケ原あたりにあるとされています。(出典:農林水産省 aff 2020年1月号

一般的に、古来の形を留める西日本では神聖な魂を象徴する「丸餅」、武家文化が発展した東日本では効率性を重視した四角い「角餅」が主流です。

角餅は、伸ばした餅を一度に切り分けられるため大量生産に向いており、江戸の人口増加に伴って広まったと言われています。

ただし、北前船による京文化の交易拠点であった山形県庄内地方や、餅を食べる文化が非常に盛んな岩手県一関市など、東日本の中にも丸餅文化圏が点在するのも面白い点です。

鏡開きの時期や食べ方にも地域差がある

お正月の間に年神様にお供えし、その力が宿ったとされる鏡餅を、家族で分けていただく神聖な行事を「鏡開き」と呼びます。

この鏡開きの時期も、実は全国一律ではなく、地域によって違いが見られます。

この違いは、年神様が家に滞在されるとされる期間、「松の内」の長さに基づいています。

江戸幕府の政策の影響で松の内が1月7日までとされた関東地方をはじめ、全国の多くの地域では、松の内が終わった後の1月11日に鏡開きを行うのが最も主流です。

一方、古い慣習が残る関西地方では、松の内を1月15日(小正月)までとするため、1月15日または20日に鏡開きを行うことが多いです。

しかし、同じ関西でも京都の一部の旧家では、三が日が明けた1月4日に早々と鏡餅を下げていただくなど、地域や家庭によって多様な習慣が存在します。

鏡開きの主な日程のまとめ

  • 全国的に最も多い日:1月11日(関東の松の内明け)
  • 関西地方で多い日:1月15日または1月20日(関西の松の内明け)
  • 京都などの一部地域:1月4日など、独自の慣習日

鏡餅をいただく際には、武家社会の慣習から刃物で「切る」行為は「切腹」を連想させ縁起が悪いとされ、手や木槌で割るのが伝統的な作法です。

「開く」という言葉には、末広がりで縁起が良いという意味が込められています。

割ったお餅は、お雑煮やおしるこ、あるいは油で揚げて塩や醤油で味付けした「かき餅(揚げ餅)」などにして、家族で分け合っていただきます。

これにより、年神様の力を体内に取り入れ、その年一年の一家の無病息災を願うのです。

鏡餅に干し柿を飾る地域はどこ?まとめ

この記事の重要ポイントをまとめます。

  • 鏡餅に干し柿を飾るのは主に関西地方の伝統文化
  • 特に柿の産地である和歌山県や奈良県でその習慣が顕著に見られる
  • 串柿には「嘉来(喜びが来る)」という幸福を招く語呂合わせの意味がある
  • 10個の柿の並び方で「いつもニコニコ仲睦まじく」という家庭円満の願いも表現される
  • 鏡餅の飾り全体を皇室由来の三種の神器に見立てる考え方もある
  • その場合、鏡餅は鏡、橙は勾玉、そして串柿は剣を象徴するとされる
  • 正月飾りとして作られる串柿は観賞用で固く、食用には向かない
  • お正月に食べる柿の文化として奈良の「ゆず巻柿」や一部地域の「年とり柿」がある
  • 柿以外の縁起物としてするめ・昆布・伊勢海老・ゆずり葉なども飾られる
  • 石川県金沢では上段が紅い「紅白鏡餅」が一般的
  • 関西の一部では「三段重ねの鏡餅」でさらなる繁栄を願う
  • 餅の形は関ケ原を境に東日本で角餅、西日本で丸餅が主流となる傾向がある
  • 鏡開きの日は松の内の期間に連動し、関東では1月11日、関西では1月15日や20日が多い
  • 鏡餅は刃物を使わず木槌などで割り「開く」のが習わし
  • お雑煮やおしるこにして食べ、年神様の力を分けてもらい一年の無病息災を願う